宮崎に役立つ研究を!から始まった日向夏の研究

宮崎大学医学部 特別教授
山口 昌俊

1980年 宮崎医科大学卒業
1984年 宮崎医科大学大学院医学研究科修了 医学博士
1990年 宮崎医科大学医学部 講師
2008年 宮崎大学医学部附属病院 遺伝カウンセリング部部長兼任
2013年 宮崎大学医学部附属病院 病院教授
2021年 宮崎大学医学部 特別教授

女性の要介護のリスクが高まる骨粗しょう症の予防をしたい

宮崎大学医学部教授で、内分泌と女性医学を専門としています。女性医学は、女性の一生に起こることを何とかしようという医学。当時の上司であった池ノ上克先生から、宮崎の特産品を使って何かできないか?という話も出ていた時に、産婦人科で骨粗しょう症を研究のターゲットにしようとしていました。女性が要介護になる原因の第1位がロコモティブシンドロームです。女性は閉経を機に、骨密度がどんどん下がっていきます。年齢が上がるにつれて、骨密度も低下していくので、骨粗しょう症のリスクも高まります。骨粗しょう症が進行すれば、骨がもろくなり骨折するリスクが高くなり、背骨の骨がつぶれると腰が曲がり、ちょっと転んだりするだけで骨折もします。骨折すると骨がもとに戻りにくいため、寝たきりになる可能性も高まります。骨粗しょう症が進行すると、元に戻すことは今の医療技術では不可能とされています。だからこそ、予防することが大事です。

宮崎の特産品で役に立つ研究ができないか?

宮崎大学は「世界を視野に地域から始めよう」というスローガンがあります。そこで、宮崎に根ざしたもの「日向夏」か「切り干し大根」で研究をしようという気運が高まりました。温州みかんの皮は古来より陳皮として漢方薬で使われています。また、沖縄県は骨粗しょう症が少ないんです。沖縄で食べられている柑橘類に骨粗しょう症を予防する成分がないか検討したところ、成分は不明だが予防する成分が含まれているという情報を手に入れたこともあり、日向夏の研究をスタートしました。閉経後の女性と近い状態の卵巣を摘出したラットに、人間だったら毎日1個日向夏を食べたことに相当する量を与えるグループと、与えないグループに分けて実験。実験終了後に、大腿骨部の骨密度を測って比べてみると、日向夏を食べさせたグループの方の骨密度が明らかに高いという結果になりました。共同研究をしていた企業が追試をしましたが、やはり同じ結果になりました。

研究を進めて分かった骨粗しょう症に役に立つ成分

骨粗しょう症の予防には、骨を壊す「破骨細胞」と、骨を作る「骨芽細胞」のバランスが大事です。閉経後に骨粗しょう症のリスクが高まるのは、このバランスが取れなくなるからでした。日向夏の研究を進めていくうちに、日向夏にはどうやら骨を破壊する細胞の活動を抑制する作用がありそうだということが分かり、またその成分は、どうやら水溶性で、糖類だろうとところまで分かりました。当初成分の特定には、薬学部の生薬を研究しているところに協力してもらうおうと思っていましたが、薬を専門としているからこそ、水溶性のものを解析する大変さや、糖が扱いにくいことも分かっていたため、解析に難色を示しました。一方で、本学の工学部に解析できる先生がいると分かり、成分の解析が一気に進みました。そこから、成分がアラビノガラクタンであると特定でき、一定量を加えたジュースを開発支援しました。

機能性食品の認定を目指しています

宮崎県農協果汁との共同研究成果として、日向夏の成分「アラビノガラクタン」を一定量加えた商品が発売されました。また、この日向夏ドリンクを使い、60 名を超えるボランティアに協力してもらってヒト試験を行い、骨代謝を正常化させる可能性を示す結果が得られています。今後、機能性表示食品の届出を目指し、日向夏みかんは「骨粗しょう症」予防に役に立つという付加価値が付いて地元宮崎の役に立つことが、この研究の最終目的だと信じて頑張っています。

インタビュー一覧